「可愛いお嬢さんですね。」
顔を上げると私と同じ70代と見られる女性が声をかけてきた。
「おいくつですか。」
「1歳半です。」
「上手にあんよ出来るんだねー。」
「いや、それが出来なくて、この前、娘婿が区の定期健診で1歳半で歩けないのは、少し遅いので練習してみてくださいと言われて、娘も婿も仕事なので、代わりに私がこうして練習をしているのです。」
「そうなのですね。でも、貴方は幸せな人ですよ。お孫さんがいるのですもの。私も孫の顔が見たかったわ。」
私は女性に何があったのかと思ったが、何も言えず次の言葉を待った。
「私は30年前にあった韓国のハロウィンでの事故で一人娘を亡くしているの。まだ当時娘は20歳そこそこで。」
「、、、あ、あの、ソウルであった150名以上の方が亡くなった圧死の事故ですか。」
「そう。」
「そうだったのですね。」
「数年続いたコロナウィルスが少し収まってきて、少し社会が回復してきたムードに包まれていたのよね。でも何故、娘をあんな危険な場所に送り出してしまったのか、止めなかったのかって、私はあの日から長年、苦しんできたわ。」
「そうだったのですね。」
「心の病院に行ったら、医者になんで、ここに来た、無駄に税金がかかるだろと言われて、逃げるように飛び出してきたこともあったわ。」
「それは、、、、酷い医者ですね。」
「でも本当に私の娘はなんで死ななければいけなかったのか、娘の死がせめて誰かの役に立っていればと思うの。」
「立ってますよ。」
「え?」
「私は自分の娘が10代から20代のときにハロウィンに渋谷に行きたい行きたいとせがまれましたが、ソウルの事故を毎年、伝えました。行ってもいいが、絶対に危険な場所にはいくなと伝えました。」
「まあ、そうなのね。」
「はい。それで結局、娘は一度もハロウィンに渋谷に行くことはなかったのです。もしかしたら、危険な事故や心の病気に繋がるような事件にまきこまれていたかもしれません。そして、この孫が生まれたのです。あなたの娘さんの命はこの私の孫の命に繋がっているのですよ。」
女性の目からは涙がこぼれていた。
「お嬢さん、お婆ちゃんと握手してくれる?」
幼い孫はゆっくり笑顔で女性に手を差し出し女性はそっとその手を握りしめた。
「ありがとう。」
「いえ。こちらこそ、ありがとうございますだよねー。」
孫はうんうんと頭を何度も上下にやってみせて、女性と私は笑った。